青砥稿花紅彩画 二幕目 稲瀬川勢揃いの場 / 問われて名乗るもおこがましいが

白浪五人男 二幕目

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目次

役名

  • 日本駄右衛門 (にっぽんだえもん)
  • 南郷力丸 (なんごうりきまる)
  • 弁天小僧菊之助 (べんてんこぞうきくのすけ)
  • 忠信利平 (ただのぶりへい)
  • 赤星十三 (あかぼしじゅうざ)
  • 捕手(とりて) 等

二幕目 : 稲瀬川(いなせがわ)勢揃(せいぞろ)いの場

大勢

迷児の迷児の三太郎やあい。

甲

又ばらばらやって来たが、大降りにならねばよい。

乙

初瀬寺(はせでら)から稲瀬川、この界隈(かいわい)にいぬからは、

丙

朝比奈(あさひな)の切り通しを越え、六浦(むつら)の方へ行ったか知らぬ。

丁

それじゃあこれから一(ひと)のしに、瀬戸橋までやッつけよう。 

甲

先へ行ったら知らぬこと、後なら彼処(あすこ)でがんばれば、

乙

知れるは必定(ひつじょう)、一方路(ぽうみち)、

丙

路(みち)のぬからぬそのうちに、

甲

こっちもぬからず、ちっとも早く、

いずれもござれ。

皆々

迷児やあい迷児やあい。

弁天小僧

雪の下から山越しに、まずここまでは逃げのびたが、

忠信

行く先つまる春の夜の、鐘も七つか六浦川(むつらがわ)、

十三

夜明けぬうちに飛石(とびいし)の洲崎(すさき)をはなれ、船に乗り、

南郷

故郷を後に三浦から岬の沖を乗りまわさば、

駄右衛門

陸(くが)とちがって波の上、人目にかかる気遣いなし、

弁天小僧

しかし六浦の川端まで、乗っきる畷(なわて)が遠州灘(えんしゅうなだ)、

忠信

油断のならぬ山風に、追風(おいて)か追手(おって)の早風(はやて)に遭えば、

十三

艪櫂(ろかい)にあらぬ一腰の、その梶柄(かじづか)の折れるまで、

南郷

腕前(うでめえ)見せて切り散らし、かなわぬ時は命綱、

駄右衛門

錠(いかり)を切って五人とも、帆綱(ほづな)の縄に、

五人

かかろうかい。

甲

盗賊の張本(ちょうぼん)日本駄右衛門、それに従う四人の者、やることならぬ、

皆々

うごくな。

駄右衛門

さては、五人がこの所へ来るをまちぶせ、

五人

なしたるか。

乙

迷児を捜す態(てい)に見せ、幾組(いくくみ)となく手わけをなし、網を張って待っていたのだ。

駄右衛門

むむ、かく露見(ろけん)の上は、卑怯未練に逃げはせぬ、一人々々に名を名乗りい縄にかかって、

五人

刑罰受けん。

甲

けなげな一言、して真っ先に、

皆々

進みしは。

駄右衛門

問われて名乗るもおこがましいが、産まれは遠州(えんしゅう)浜松在(はままつざい)、十四(じゅうし)の年から親に放れ、身の生業(なりわい)も白浪の沖を越えたる夜働き、盗みはすれど非道はせず、人に情(なさけ)を掛川(かけがわ)から金谷(かなや)をかけて宿々で、義賊と噂高札に廻る配附(はいふ)の盥越(たれえご)し、危ねえその身の境界(きょうげえ)も最早四十に人間の、定めはわずか五十年、六十余州に隠れのねえ賊徒(ぞくと)の帳本(ちょうぼん)日本駄右衛門。

弁天小僧

さてその次は江の島の岩本院(いわもといん)の児(ちご)あがり、ふだん着慣れし振袖から髷(まげ)も島田(しまだ)に由井ケ浜(ゆいがはま)、打ち込む浪にしっぽりと女に化けた美人局(つつもたせ)、油断のならぬ小娘も小袋坂(こぶくろざか)に身の破れ、悪い浮名も竜(たつ)の口(くち)土の牢へも二度三度、だんだん越える鳥居数(とりいかず)、八幡様の氏子にて鎌倉無宿と肩書も島に育ってその名さえ、弁天小僧菊之助。

忠信

続いて次に控えしは月の武蔵の江戸そだち、幼児(がき)の折から手癖が悪く、抜(ぬけ)参(めい)りからぐれ出して旅をかせぎに西国(さいこく)を廻って首尾も吉野山、まぶな仕事も大峰(おおみね)に足をとめたる奈良の京、碁打(ごうち)と言って寺々や豪家(ごうか)へ入(い)り込み盗んだる金が御嶽(みたけ)の罪科(つみとが)は、蹴抜(けぬけ)の塔の二重三重、重なる悪事に高飛なし、後を隠せし判官(ほうがん)の御名前(おなめえ)騙(がた)りの忠信利平。

十三

またその次に列(つら)なるは、以前は武家の中小姓(ちゅうごしょう)、故主(こしゅう)のために切取りも、鈍(にぶ)き刃(やいば)の腰越や砥上(とがみ)ケ原に身の錆(さび)を磨ぎなおしても抜き兼ねる、盗み心の深翠(みど)り、柳の都(みやこ)谷七郷(やつしちごう)、花水橋(はなみずばし)の切取りから、今牛若と名も高く、忍ぶ姿も人の目に月影(つきがみ)ケ谷(やつ)神輿(みこし)ケ嶽(たけ)、今日ぞ命の明け方に消ゆる間近き星月夜(ほしづきよ)、その名も赤星十三郎。

南郷

さてどんじりに控えしは、潮風(しおかぜ)荒(あら)き小ゆるぎの磯馴(そなれ)の松の曲りなり、人となったる浜そだち、仁義の道も白川の夜船へ乗り込む船盗人(ふなぬすびと)、波にきらめく稲妻の白刃に脅す人殺し、背負って立たれぬ罪科(つみとが)は、その身に重き虎ケ石(とらがいし)、悪車千里というからはどうで終いは木の空と覚悟は予(かね)て鴫立沢(しぎたつざわ)、しかし哀れは身に知らぬ念仏嫌えな南郷力丸。

駄右衛門

五つ連れ立つ雁金(かりがね)の、五人男にかたどりて、

弁天小僧

案に相違の顔触(かおぶれ)は、誰(たれ)白浪の五人連れ、

忠信

その名もとどろく雷鳴(かみなり)の、音に響きし我々は、

十三

千人あまりのその中で、極印(こくいん)うった頭分、

南郷

太えか布袋か盗人(どろぼう)の、腹は大きい胆玉(きもったま)、

駄右衛門

ならば手柄に、

五人

からめて見ろ。

捕手

なにをこしゃくな。

駄右衛門

今日は一緒に身の終わりと、覚悟はせしが一日でも 脱れられなば逃げ延びん。

南郷

いかさま命が物種(ものだね)なれば、

忠信

五人連れにて一先ずこの地を、

駄右衛門

いや、大勢(おおぜい)づれでは人目に立つ。忠信、赤星両人は、これよりすぐに中仙道、南郷、弁天両人は道を違えて東海道、片時も早く落ち延びよ。

四人

してまた、頭は、

駄右衛門

この身はやっぱり鎌倉のうちに隠れて、後より出立(しゅったつ)。

南郷

そんならこれより右左、

十三

わかれわかれに旅路へ出かけ、

弁天小僧

道中筋を一働き、

忠信

五月を待って京都にて、

駄右衛門

ふたたび出逢う、

五人

五人男。

捕手

捕った。

四人

またもや、捕手(とりて)、

駄右衛門

いや、ここ構わずと、

四人

そんなら頭、

駄右衛門

片時(へんし)も早く、

四人

合点だ。

参考文献

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